東京地方裁判所 昭和63年(ワ)12778号 判決
主文
一 被告赤塚神社及び被告国と原告との間で、次の土地が原告の所有であることを確認する。
板橋区成増四丁目一〇三八番
畑 八八二平方メートル
二 被告赤塚神社は、原告に対し、右の土地について、大正元年九月九日合併を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
一 原告の請求
主文と同じ。
二 事案の概要
1 本件は、もと被告赤塚神社が所有し現在も同神社の所有名義となっている主文一項記載の土地(以下「本件土地」という。)について、原告氷川神社が、赤塚神社は大正元年に氷川神社の境内末社である八幡神社に合祀されたことにより氷川神社に合併されたとして、赤塚神社と国に対し右土地の所有権の確認と、赤塚神社に対し同土地の所有権移転登記手続とを求めた事案である。
2 争点は、被告赤塚神社の祭神が原告氷川神社の境内末社である八幡神社に合祀されたことに伴い、被告赤塚神社が原告氷川神社に合併されたかどうかという点にある。
三 争点に対する判断
1 証拠によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 被告赤塚神社は、もと北豊島郡赤塚村大字上赤塚一〇三七番の土地(明治末頃の表示による。現在の表示は板橋区成増四丁目一〇三七番。)上に所在し、天祖神社とも称していた。
証拠
甲九(赤塚神社の合祀願)
甲一〇(天祖神社の合祀願許可書及びその送付書)
丙五(赤塚神社の合祀願)
証人小日向仲藏の証言(一三、二三~二七項)
(二) 赤塚神社(天祖神社)は、明治四五年七月一三日、東京府知事に対し、原告氷川神社の境内末社である八幡神社への合祀願を提出したところ、大正元年九月九日に許可がなされ、合祀が行われた。
証拠
甲二(原告氷川神社社殿の建物登記簿謄本)
甲五(神社明細帳についての証明書・天祖神社関係)
甲六、七(神社明細帳についての証明書・氷川神社関係)
甲八(本件土地付近住民の具申書)
甲一〇(前出)
証人小日向仲藏の証言(四八~五四項)
2 ところで、神社の「合祀」につき直接明文をもって定めた法令は存在しない。これについて、丙八(内務省神社局編纂・神社法令輯覧)によれば、赤塚神社が八幡神社へ合祀された当時の行政解釈は、神社は原則として法人格を有すると解したうえで、合祀を神社の合併として扱い、甲神社を乙神社に合祀する場合、甲神社の神社名は残し、甲神社の祭神も乙神社の祭神と合わせて乙神社に祀るが、甲神社の法人格は乙神社に吸収され消滅するものと解していたことが認められる(明治四四年三月四日四三社第一〇四七号内務省神社局長依命通牒「神社ヲ他ノ神社境内ニ移轉シ又ハ境内神社ニ合併シタル場合ニ於ケル不動産登記ニ關スル件」)。
また、丙七及び八(いずれも前出神社法令輯覧)によれば、当時の行政解釈は、境内神社(境内末社もこれに含まれる。)について、甲神社が乙神社の境内に移転したときは、甲神社は乙神社に合併されて法人格を失い、甲神社の財産は乙神社に帰属すると解し、さらに甲神社を乙神社の境内神社である丙神社に合祀する場合には、甲神社の祭神を丙神社の祭神と合わせて祀る(合祀する)が、法人格については、甲神社が乙神社に合併されるものと解していたことが認められる(前出明治四四年三月四日四三社第一〇四七号内務省神社局長依命通牒、明治四一年二月四日社甲第二号内務省神社局長通牒「他ノ神社境内ニ移轉スル神社ハ獨立ノ資格ヲ失ヒ神饌幣帛料供進ノ神社ト指定シ得サルノ件」)。
3 合祀及び境内神社の法的性格についての右の行政解釈は、祭祀の維持や財産の管理が困難になった神社(前出甲一〇参照。)について、これを単に消滅させるのではなく、その財産は祭祀の維持や財産の管理が可能な神社(境内を提供する神社または合祀を受ける神社)に一元的に帰属させるとともに、この神社の下で将来もそれぞれの神社の祭神を祀り崇敬することを可能にしようとするものであり、この解釈は、当時の合祀及び境内神社の実体に即した合理的な判断であったと解される。
そして、本件の赤塚神社の関係者も、そのような行政解釈を前提として合祀を申請したものと推認できる(前出甲一〇、丙八参照。)。
以上によれば、甲神社が乙神社の境内神社である丙神社に合祀された場合には、甲神社は乙神社に合併されるものと解するのが妥当である。そうであれば、赤塚神社は氷川神社の境内神社である八幡神社に合祀されたことにより氷川神社に合併されたというべきであるから、赤塚神社の所有していた本件土地は、合併により氷川神社の所有に帰したといわねばならない。
4 よって、原告氷川神社と被告赤塚神社及び被告国との間で、本件土地が原告氷川神社の所有であることを確認するとともに、被告赤塚神社に対し右合併を原因とする本件土地の原告氷川神社への所有権移転登記手続を命ずることとする。
(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 岩田好二 裁判官 久留島群一)